​Apple Watchの心電図アプリケーション機能の注意点 -2021.7.19

今回、Apple Watchの心電図アプリケーションを用いる上で、どういう場合に判定不能や誤って心房細動と分類されやすいかについて、実際の心電図波形を用いて以下のケースに分けて検証を行った。

 

Case 1 手や腕が濡れている場合

Case 2 坐位以外で測定する場合(臥位、立位)

Case 3 体動がある場合(歩行中、ジョギング中、腕の振戦)

Case 4 装着方法が通常と異なる場合(時計に隙間がある場合、時計を掌側に装着した場合)

Case 5 心電図波形が特殊な場合

Case 1〜4についてはそれぞれ10回ずつの測定を行い、波形及び判定の精度を確認した。以下は坐位(座った状態)で腕を膝上に固定して計測した心電図波形である。

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正しい測定方法では、基線の揺れがなく、P波やR波が安定して確認できる事がわかる。

■Case 1 手や腕が濡れている場合

 運動時・運動後・夏場には汗で腕や指が濡れてしまう場合があると考えられる。意図的にバンドを巻いている腕やApple Watch裏蓋の心拍センサーとデジタルクラウンに接触させる指を水で濡らすことで擬似的に同じような環境を作成した。測定は坐位で腕を膝上に固定して行った。

測定結果>洞調律10回、心房細動0回、判定不能0回

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 腕や指が濡れていること自体は、波形・判定に大きな影響はないようである。

■Case 2 坐位以外で測定する場合

坐位(座った状態)で腕を膝上や机上において心電図測定を行うケースが最も一般的と考えられるが、臥位(横になった状態)、立位(立った状態)で測定した場合の判定精度はどうであろうか。

 

①臥位で測定した場合

臥位で腹部に腕をおいて安定させた上で、測定を行った。

測定結果>洞調律10回、心房細動0回、判定不能0回

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坐位のときと比較して、わずかな基線のゆらぎがあるように見えるが、問題なく測定できているようである。

 

②立位で測定した場合

立位での測定のため、腕は固定せずに測定を行った。

 

判定結果>洞調律8回、心房細動1回、判定不能1回

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立位では腕が固定されていないので体動が生じたり、腕を上げていることで筋電図が入るためか心電図の基線にノイズが見られ、それにより「心房細動」や「判定不能」と誤って判別されているようであった。目視で確認する限りでは、R波は整であることがわかる。

■Case 3 体動がある場合

①歩行中に測定した場合

判定結果>洞調律4回、心房細動0回、判定不能6回

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立位かつ、腕の動きがあるため波形のぶれが大きく、判定不能が6回認められ、洞調律と判定された波形についても綺麗な波形は得られていなかった。歩行中の心電図計測は不適と考えられる。

②ジョギング中に測定した場合

判定結果>洞調律0回、心房細動0回、判定不能5回、測定が途中で停止5回

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ジョギング中の計測はノイズが大きく、目視でもR波の判断が難しい。半数で測定途中に記録が停止してしまう現象が生じた。

③腕の振戦がある場合

坐位にてパーキンソン病でよく認められる約5Hzの振戦(ふるえ)を擬似的に再現し、心電図測定を行った。

 

判定結果>洞調律5回、心房細動0回、判定不能5回

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小刻みの振動・筋電図がアーチファクトとなり、判定不能となったものが半数であった。

■Case 4 装着方法が通常と異なる場合

①腕とApple Watchとの間に隙間がある場合

ベルトがゆるい場合など、Apple Watchと前腕に隙間を作り、測定を行った。

 

測定結果>少しでも隙間があれば心電図測定が開始されなかった。

心電図測定のためには、皮膚とApple Watch裏蓋の心拍センサーへの接触が必須と考えらえる。

 

②手のひら側(掌側)にバンドを巻いて測定した場合

測定結果>洞調律10回、心房細動0回、判定不能0回

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心電図は問題なく測定可能であった。

■Case 5 心電図波形が特殊な場合

他に想定されるケースとしては、特殊な疾患や体質的な問題で、心電図の波高(心電図の上下の波の高さ)が極端に大きい場合や小さい場合、期外収縮が多い場合などが考えられる。

 

下記は正常洞調律の肥大型心筋症患者の心電図波形を計測したものである。

心電図の陽性部分、陰性部分の波高が大きいためか、判定不能と診断されたり、測定自体が途中で停止してしまう場合があった。

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※波高が高いため、上下ともに心電図が見切れている。

 

また、下記のように波高が極端に小さい場合も判定不能となりやすい。

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■検証のまとめ

いかがだったであろうか。今回の検証により、Apple Watchの心電図アプリケーションでは、測定環境によって心電図波形の精度や診断に大きな影響がでることがわかった。特に立位や体動時の測定結果は不確実であり、評価に注意を要する。

医療機関側も患者から心房細動の波形の提示があった場合には、どのような状況下で測定されたものなのかを把握したり、測定された波形を目視確認することが望ましいだろう。

また患者の心電図波形にノイズが多い場合にも測定環境を確認する必要がある。

Apple Watchは正しい測定方法を遵守して初めて有効なセルフモニタリングツールとなり得るのである。

 

それでは次回は、どのような時に心電図アプリケーションを使うべきかについて考察を述べたいと思う。