​Apple Watch心電機能の使い方

 2021年1月27日にiOS 14.4、watchOS 7.3がリリースされ、Apple Watchを用いた心電の計測が可能となった。海外では、2018年9月発売のApple Watch series 4から使えていた機能だが、日本では認可が遅れ、現在の承認に至る。Apple Watch心電アプリケーションは、特に心房細動の兆候の検出に役立つとされる。今回、Apple Watch心電アプリケーションで検出可能となった心房細動やApple Watchの心電機能について解説する。

心房細動とは

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 心房細動は簡単に言うと脈が”バラバラ”になる不整脈である。心臓の拍動は電気信号でコントロールされており、その電気信号は右心房にある洞結節→心房→房室結節→心室という順序で伝わっていく。洞結節から正しく電気が伝わり、規則正しく心臓が脈打っている場合には、”洞調律”と呼ばれる。しかしながら、心房細動が生じると、心房の電気信号がバラバラとなり、ランダムな電気信号が房室結節→心室に伝わることになる。その結果、脈が乱れることになる。

心房細動の心電図の特徴にはどういったものがあるだろうか。

洞調律では規則正しくR波(一番高い波)がならび、P波が確認できることが多いのに対して、心房細動では、R波が等間隔にならず、P波が消失し、基線が細かく動揺する(f波)といった特徴がある。以下に健常者(正常洞調律)および心房細動患者の波形を示す。

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心房細動になると心房が小刻みに震えるため、うまく収縮できない状態となり、様々な弊害を生じる。心房細動で気をつけるべきことは主に下記の3つである。

 

① 自覚症状

脈がバラバラになったり、脈が極端に早くなったり遅くなることで動悸、息切れなどの原因となる。体を動かしたときに特に悪化しやすいとされる。ただし、心房細動のうち4割の方には自覚症状がないとされる。

② 脳梗塞

心房が細かく震えることで心房内に血栓ができ、それが飛んでいくことで脳梗塞になる。脳梗塞予防のために、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)が用いられ、年齢や持病などを加味して服薬するかを検討する。

抗凝固薬や脳梗塞リスクについての詳細は、弊社開発の心房細動アプリをダウンロードしてご覧ください。心房細動アプリ (shinbousaidouapp.com)

③ 心不全

心房の収縮ができなくなるため心臓へうまく血流が運べなくなったり、脈がバラバラになることで心臓に負荷がかかって心不全になることがある。心不全になると息切れなどの自覚症状が出現したり、足のむくみや体重の増加などが生じたりする。

 

心房細動の診断は一般的には、医療機関で実施される12誘導心電図検査や、一日中心電図を記録し続けられる24時間ホルター心電図検査を用いて診断される。ただ心房細動は不整脈が生じているときに心電図検査を行わないと診断ができず、無症状の心房細動やたまにしか生じない心房細動(発作性心房細動)があることから医療機関への受診の遅れや診断の遅れにつながりやすい。脳梗塞や心不全と診断されて初めて心房細動が発覚するケースも多いため、心房細動の早期の診断・治療介入が望まし診断を迅速にするために簡便なスクリーニング測定機器が求められてきた。

Apple Watch心電アプリケーションの特徴

そこで登場したのが、このApple Watchの心電アプリケーションであり、このアプリケーションは不整脈の中でも特に心房細動を発見することに特化している。現在、電気心拍センサーを搭載しているApple Watch Series 4/5/6で利用可能な機能である。

 

なんといってもApple Watchは、心電を気軽に計測でき、結果が確認しやすい。

Apple Watchの心電アプリケーションを起動し、指示されたとおりにApple Watchの裏蓋にある心拍センサーとデジタルクラウンに組み込まれている電極に触れることで、12誘導心電図検査のⅠ誘導相当の心電図を簡単に記録することができる。

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アプリケーションで記録した心電はPDFとして出力可能である。iPhoneのヘルスケアアプリ内で記録した心電を選択した後、「医師に渡すためにPDFを書き出す」ボタンを押すことでPDF化された心電図が作成され、心電図全体を確認できる。また、PDF画面の右上の共有ボタンを押すことでメールへの添付ができる。

診断結果例

30秒後心電記録の後、心電結果は、”洞調律”、”心房細動”、”心拍数が120より上”、”心拍数が50より下”、”判定不能”のいずれかに分類される。

① 洞調律

今回の心電測定では心房細動の兆候が認められなかったことを示し、心臓が50-100回/分の一定のリズムで拍動していることを意味している。測定結果の中では正常ととれる判定結果である。

 

② 心房細動

心電に心房細動の兆候を認めたことを示している。心臓が50-120拍/分の不規則なパターンで拍動していることを意味している。

 

③ 低心拍数および高心拍数

心拍数が120拍/分を上回る場合(高心拍数)や50拍/分を下回る場合(低心拍数)、心房細動のチェックは行われない。運動、ストレス、緊張、アルコール、脱水、感染症、心房細動、その他の不整脈で高い心拍数が計測されることがある。また特定の薬剤の影響や心臓から電気信号が適切に伝わらなかった事によって、低い心拍数が計測されることがある。

 

④ 判定不能

心電記録がうまくできなかった場合、判定不能となる。アーチファクトやノイズが多い場合、心房細動以外の不整脈がある場合、心拍が100-120拍/分である場合この結果となる可能性がある。まれに生理条件によって記録の作成に十分な信号を生成できない場合がある。

 

最後に、下記の文言が必ず明記されていることに注意すること!

いずれの診断結果であったとしても、上記が予期しない診断結果であった場合や自覚症状などで救急医療が必要と感じるときは、医療機関への受診や、緊急通報サービスに連絡することが必要である。

つまり、結果を過信するのではなく、自分で必要と思う場合は必ず医療機関へ受診し、確認をとること。あくまでも結果をかかりつけ医との情報共有に使用するといったイメージをもっていただけると良いのではないだろうか。

Apple Watch心電アプリケーションと12誘導心電図

下記は、同一人物でのApple Watchと12誘導心電図との比較である。

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医療機関で実施される12誘導心電図検査は上記の画像のように12種類の心電図波形が表示され、それをもとに医師が不整脈有無などを診断している。12誘導の中でも右手から左手方向への電気の流れを検出したものがⅠ誘導である。Apple Watchの心電アプリケーションではこのⅠ誘導相当の心電図波形しか取得することができない。一般的にはP波はⅡ誘導やV1誘導で確認しやすく、またR波が確認しやすい誘導も人により異なる。

実際に医師が臨床現場で心房細動と診断する場合、12誘導心電図検査で確定診断を行うが、その場合、P波の有無、基線の動揺、R波の不整といった所見を複数の誘導を用いて判断する。そのため、単独の誘導しか確認できない心電アプリケーションでは診断精度が劣ることは致し方ない。それでは次にApple Watchの心電アプリケーションの診断精度についてApple社から報告されているレポートを見ていく。

心電アプリケーションの精度

これは、Apple Watchの心電アプリケーションの診断精度についてのApple社からレポート(Using Apple Watch for Arrhythmia Detection December 2018)から日本語訳で抜粋したものである。

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この約600人が参加したバリデーション研究で、Apple Watchの性能評価が検証されている。Apple Watch心電アプリケーションを利用して記録された心電の診断結果と同時に実施した12誘導心電図検査を医師が読影した結果を比較したところ、アプリケーションは分類可能な記録のうち、心房細動の分類で98.3%の感度、洞調律の分類で99.6%の特異度と、高い精度を示した。

一方で、未分類、判定不能、機器の結果報告なしを入れると、心房細動を有していたとしても81.4%しかアプリ上、”心房細動”と表示されない、洞調律の精度も80.7%にまで低下してしまう。つまり、正しい測定環境下で検査が実施されていない場合には心房細動ありなしの検出の精度が低下する。

 

では、どういう場合に未分類、判定不能になりやすいかについては、次回具体的に動画を交えて報告したいと思う。