どのような時に心電図アプリケーションを使うべきか -2021.7.20
想定される例
・動悸など自覚症状がある場合にアプリケーションを使用して、心房細動の兆候を早期に検出する。
・心房細動アブレーション術後の心房細動の兆候のフォローアップに用いる。
・心房細動と既に診断された後の心房細動の兆候のモニタリングに定期的に用いる。
・原因不明の脳梗塞後の心房細動の兆候を早期に検出する。
上記4つが最も考えられやすい。
また、Apple Watchを心房細動のマス・スクリーニング目的に用いることに関しては意見が分かれるところではある。(N Engl J Med 382:10, 974-976.)
・65歳以上の高齢者への心房細動のスクリーニングに用いる。
心房細動発症のリスクファクターとして高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、心不全や心筋梗塞の既往などがある。高齢者でこれらのリスクを有する方は積極的に使用を検討してもよいかもしれない。
偽陽性、偽陰性などの問題
また偽陽性、偽陰性などのウェアラブル機器特有の課題も存在する。
例えば、「心房細動の兆候あり」と表示されたものの実際は心房性期外収縮であったといった場合は、偽陽性判定となる(Circ Rep 2020;2:345-350)この場合、余計な不安を与えてしまいかねない。実際、アメリカでは余計な医療機関受診につながっているといった負の側面も報告されている(Journal of the American Medical Informatics Association, 27(9), 2020, 1359–1363)
一方、心房細動であるにもかかわらず「心房細動の兆候あり」と表示されない場合は偽陰性となるが、この場合間違った安心を与える可能性もある。心房細動には脈がはやくなる頻脈性心房細動や脈拍が遅くなる徐脈性心房細動などの種類が存在するが、このアプリケーションでは50-120拍/分の間を超える範囲の心房細動は検出できない仕様となっている。(高心拍、低心拍の場合、心房細動のチェックが行われない)
このような制約があるなかでの判定結果であり、診断結果が心房細動でない場合であっても心房細動を有していないことを意味しない。そのため、自覚症状がある場合には、アプリケーションの診断結果が心房細動の兆候ありでなかったとしても、医療機関を受診しなくて良いということにはならず、何か不調を感じた際には医療機関への受診が望ましい。
以上のように、アプリケーションの通知結果は参考指標の一つであり、実際の病態とは異なる場合があることを心得て使用する必要がある。
またこのアプリケーションでは、心房細動でも生じうる胸の違和感・痛みや動悸症状の原因となる狭心症・心筋梗塞・大動脈解離・肺塞栓症といった危険な疾患は判定できない。血栓有無や脳梗塞の診断はできない。
将来の展望
厚生労働省に認可されたのはハードウェアである”Apple Watch”ではなく、ソフトウェアの”心電図アプリケーション”であり、今後様々な機器に搭載することも可能と思われる。心電図アプリケーションは「家庭用心電計プログラム」の名で医療機器として承認されたが、今回のようにソフトウェアが医療機器として承認されるのは、今回が国内初の事例となっている。本来であれば医療機器の販売には届け出や資格などが必要とされるが、この「家庭用心電計プログラム」では不要とされるため、今後同様の機器が普及する見込みは高い。
前回の検証でもお話したが、Apple Watchで出力した心電図を確認する限りでは医療機器で測定される心電図とかなり近い精度で波形を記録できている印象である。正しい使い方を心得ればApple Watchの心電図アプリケーションは簡便性・利便性を考えると非常に有用であり、今後心電図、ホルター心電図に並ぶ新たな心房細動診断ツールとなることを期待する。