​第1回対談記事:三浦雄一郎氏の健康法

2019年7月7日

80歳という世界最高齢でのエベレスト登頂の記録を持つプロスキーヤーの三浦雄一郎さんを、京都市民公開講座のゲストに迎え自身の健康法や数々の挑戦についてお話をしていただきました。

三浦さんの健康法は「攻める健康法」。プロスキーヤーとして、富士山での直滑降の成功やギネスブックにも記録の残るエベレストのサウスコル8000m地点からの滑降など、若い頃から数多くの記録を持つ三浦さんですが、意外にも第一線を一旦退いた後に暴飲暴食を続けた結果、メタボリックシンドロームになってしまったそうです。他にも様々な疾患をかかえ、このままではまさかの「余命3年」と宣告されたと言います。当時、小学生でも登れるような500mクラスの山でも息切れをしたという三浦さんですが、65歳の時に70歳でエベレストに登るという目標を掲げられました。「もう年だから…」というような守る健康法ではなく積極的に負荷をかける「攻める健康法」を実践、そのトレーニングのかいあって本当に70歳、75歳、80歳でエベレスト登頂に成功したのは驚きです。

しかも、なんと三浦さんはメタボリックシンドロームであっただけでなく心房細動の持病も長年もっておられるのです。これまでに受けたカテーテルアブレーション手術は実に7回!(もちろん一般的にこれだけの回数を三浦さんの年齢で行うことはほとんどないでしょう。三浦さんの場合はエベレスト登頂という極限の状況に備えるための手術だったそうです。)

 

心臓という臓器は命に直結する臓器というイメージがありますから(もちろん実際そうではあるのですが)、少しドキドキっと動悸がするだけでも何か大きな病気ではないかと不安になる方も多いでしょう。心房細動という病気自体は即生命を脅かすような病ではありませんが、診断されると非常に不安になり落ち込んでしまう方も多いように思います。

しかし、心房細動が怖いのは脳梗塞などの大きな病気を引き起こす原因になるという点です。脳梗塞や心不全は言わば心房細動の「二次被害」。そしてそれは手術やお薬での管理によってかなりの確率で予防することができるのです。

 

実際に、三浦さんはこの病気と長年付き合いながらも、完全に健康な人であっても達成が困難な目標を次々に実現してこられました。もちろん病気の状況や体力など背景は人それぞれ違いますから一概に心房細動があっても同じことができるとは言えませんが、このご経験は同じ病気を持つ患者さんにとって大きな勇気になるのではないでしょうか。

 

病気があっても、患者さんがやりたいことや夢をあきらめずに「自分らしく」生活ができるよう私も医師としてできるお手伝いをしたいと思い、ヘルステックイノベーション研究センターでは啓発活動や病気とうまく付き合っていくのに役立てていただけるアプリの開発などを行っています。

 

どんな気持ちで生きていくことが人生を豊かにしてくれるのか、何歳になっても持病があっても若々しくはつらつと生きるためにはどうすれば良いのか。パワー溢れる三浦雄一郎さんのお話は、私にとっても医師としてまた一人の人間として多くの気づきを与えてくれました。

 

興味のある方は、三浦さんのこれまでの挑戦や健康に対する考え方が書かれた本もたくさん出版されていますので是非読んでみてください。何歳になっても挑戦を続ける三浦さんの姿に、勇気や元気をもらえると思います。

 

忙しい講演会の合間を縫って、質問にも応えてくださいました。

 

―過酷な挑戦や厳しいトレーニングをされていますが、普段の生活では持病があることを意識したりしますか。

 

普段は忘れてのんきに暮らしていますよ。あまり気にせずスキーをしたり山に登ったり趣味を楽しんでいます。

でも、80歳でエベレストに登頂した前年には、トレーニングのために登った6,000メートルの山で登頂中に虫歯や持病の心房細動を発症し、その時は同行の先生の判断に従い下山しました。その年の11月中旬に手術を受けて、翌3月にはエベレストに出発し登頂に成功しています。その間、風邪ひいてまたぶりかえし、再手術を受けたりもしていたので、まわりは「もうあきらめよう」と言っていましたが80歳で登頂するという私の決心がゆらぐことは無かったですね。

―その時に実践されたのが、著書にも書いておられた「年寄り半日仕事」ですね。

 

そうです。若い頃のように朝から晩まで頑張っては体が持ちません。エベレストでも、朝から登り始めてお昼ごはんを食べて、昼寝をして、起きたら周辺を散歩してそこに泊まる。普通より時間はかかりますが、これを16日間繰り返して登頂しました。

 

―病気や年齢を考えて挑戦をあきらめるかどうかではなく、「どうやればできるか」だけ考えていらっしゃるんですね

 

そう、楽しくやろうと。

子どものころから病気には慣れていますし、現役ときも大きな怪我をすることもありましたから。

 

―これだけの過酷な挑戦をしてこられた三浦さんなので、子どもの頃から強靭な肉体を持っておられたのかと思っていましたが病気もよくされていたんですね。

 

でも子どもの頃はそんなことを気にすることもなく、治れば元気に遊んでいましたね。

 

―普通に生活している人よりも、極限状態の過酷な挑戦をする中では「死」が身近なものだと思いますが、心の底から怖いと思われることはありますか?

 

いや思ったことないです。自分はならないと思ってる(笑)。

 

―実際に登頂中に死と隣り合わせになったようなご経験もあると拝読しました。そんな時も怖いとは思わなかったのですか?

 

思わないですね。日本でのトレーニングで苦しさとか知っていますからね。

 

―どう乗り切るかしか考えてない?

 

そうですね。

70歳の時は、登頂中にアイスフォールでひどくせき込んで「もうだめかな」と思ったときがあったんですが、同行の先生が持っていた薬が効いて助かったという経験はありますね。医療が進歩しているおかげで助かりました。ヒマラヤで登っているときにも常に心拍や血圧は東京の主治医が遠隔でモニタリングしてくれていたりするので、ある意味の安心感もありますよね。単なる苦しさなのか病気による苦しさなのか分かりますからね。 

 

―ギリギリの挑戦、生きるか死ぬかの挑戦をずっと続けてこられています。それは何かの信念のようなものがあってその達成のためにされているのですか。もしくはそれ自体が目的なのでしょうか

 

信念ということじゃなく、ただエベレストの頂上へ行ってみたいという気持ちですね。 

 

―突き動かされるような?

 

そうですね。若い頃より年をとればとるほど「この年で達成できるのか!?」というのが僕にとっては良い経験なんですね。純粋な好奇心と挑戦心のようなものですね。

 

―次の挑戦もすでに計画されているそうですね。

 

今年で87歳ですが、90歳になったらキリマンジャロに登るつもりでトレーニングしています。

 

―すごいですね! 

日々厳しいトレーニングを続けておられる三浦さんですが、日々どんな気持ちで過ごされているんですか。

 

楽しいですよ。マンガの延長のような気持ちです。次はどんなことをしようかと考えながらね。登頂した時に山の上でお茶会をしたりもするんですよ(笑)

 

―非常に元気や勇気のいただける貴重なお話でした。ありがとうございました。次の挑戦も楽しみにしています!

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