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心房細動の豆知識

アブレーション後に起こりうる合併症

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アブレーション後
1ヶ月以内
に起こりうる症状とその原因

背部痛

後腹膜血腫、筋骨格痛

胸痛

心膜炎、心嚢液貯留、心タンポナーデ、冠動脈狭窄、肺静脈狭窄、筋骨格痛、逆流性食道炎

咳嗽

気管支損傷、肺静脈狭窄、感染

嚥下困難

食道損傷、左房食道瘻

嘔気、膨満感

食道神経叢障害、全身麻酔

発熱

膜炎、左房食道瘻、感染

神経学的症状

脳梗塞、左房食道瘻

穿刺部痛

仮性動脈瘤、動静脈瘻、穿刺部血腫

頭痛

脳梗塞、偏頭痛、全身麻酔

低血圧

心嚢液貯留、心タンポナーデ、出血、感染、迷走神経反射

喀血

肺静脈狭窄、感染

息切れ

心不全、肺静脈狭窄、横隔神経麻痺、感染

アブレーション後
1ヶ月以降
に起こりうる症状とその原因

発熱、嚥下困難

左房食道瘻

神経学的症状

脳梗塞、左房食道瘻

持続する咳嗽、非典型的胸痛

肺静脈狭窄、感染

喀血

肺静脈狭窄、感染

アブレーション後に起こりうる合併症詳細

・術中管理に伴う合併症

アブレーションは多くの場合全身麻酔下で行われるため、術後鎮痛・鎮静薬による頭痛や嘔気、倦怠感を認めることがある。また長時間の仰臥位による背部痛や術中に施行した電気的除細動による胸痛を術後認めることがある。さらに術中に使用する声門上デバイス(i-gel)や経食道エコー・食道温度計などによる気管支/食道損傷が原因で、術後咳嗽や嚥下困難を認めることがある。通常数日で自然に消失する。

 

・気管支損傷

アブレーションにより気管支や肺が直接障害されることにより、術後6週間まで空咳が続くことがある。この合併症はRFよりクライオアブレーションで多く、一般的に鎮咳薬で治療され、4-6週間で治まることが多い。

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・食道神経叢障害

左房後壁に沿って広範囲にアブレーションを行った場合、食道近傍の神経叢が傷害され胃の蠕動運動不全による急性胃拡張が発生する可能性がある。症状は通常4-6週間で改善するが、その間は少量の食事を頻回に取ることが勧められる。

 

・左房食道瘻

左房後壁の心筋は非常に薄く、高周波通電により左房と近接している食道の間に瘻孔が形成されることがある。発熱が初期症状として認められることもあり、また1ヶ月以上持続する嚥下障害や神経学的症状を認める場合はCTやMRIなどの画像検査が望ましい。治療法は、通常外科的な食道切除と心膜パッチによる心修復術である。

 

・偏頭痛

特に偏頭痛の既往のある患者は、術後頭痛を認めることがある。心房中隔穿刺後に残存する心房中隔欠損と関連している可能性があり、通常数週間で改善する。

・穿刺トラブル(穿刺部血腫、仮性動脈瘤、動静脈瘻、後腹膜血腫)

アブレーションではカテーテルシースを大腿静脈や大腿動脈などの太い血管に複数本留置することが多い。シース抜去後出血が止まりにくい場合、穿刺部血腫として約1週間は痛みと青紫色の斑が残るが、通常時間経過とともに吸収されて消失する。重度の背部痛や1週間以上穿刺部痛が持続あるいは増悪する場合は、後腹膜腔への出血(後腹膜血腫)や、血管壁が二層に裂け瘤状に膨らむ仮性動脈瘤、動脈と静脈が直接交通する動静脈瘻の合併が疑われるので精査を行うべきである。

 

・心膜炎

焼灼による炎症が心外膜側にまで波及することで発生する。焼灼範囲が広範であったアブレーション後に発生しやすく、微熱や吸気時の胸痛(75%以上)として認めることが多い。症状コントロール目的に非ステロイド性抗炎症薬やコルヒチンの使用が推奨される。通常アブレーション後1週間で改善し、症状持続や再燃がない場合は経口ステロイドの使用は避けるべきである。

 

・心嚢液貯留、心タンポナーデ

電極カテーテルの留置や焼灼による心筋損傷、心房中隔誤穿刺などに起因し、多くは心嚢内に血液が貯留することで発生する。胸痛や、心臓が十分拡張できないことによる血圧低下を認める際は心エコーで確認し、必要に応じて心嚢穿刺を行う。

 

・冠動脈狭窄

アブレーション後心電図変化や労作に伴う胸痛を認める場合は、速やかに冠動脈狭窄を精査するべきである。特に僧帽弁峡部心外膜側あるいは冠静脈に起因する頻拍を治療するために冠静脈内でアブレーションを行った場合、回旋枝動脈狭窄に留意すべきである。

 

・肺静脈狭窄

心房細動に対して肺静脈隔離術を施行した際に生じる可能性がある。肺静脈狭窄の多くは無症候性であるが、アブレーション後に息切れ、胸痛、咳嗽、喀血などの症状を呈し発見されることがある。特にアブレーション後6週間以上継続する咳嗽や非典型的胸痛・術後3-6ヶ月で喀血を認める場合は速やかにXpやCTなどの画像検査を行うべきである。肺静脈狭窄の初期では、肺静脈ステント留置術を専門とする施設への紹介も考慮される。

 

・心不全

焼却巣の血栓形成を減少させるためにカテーテルの灌流水を大量に使用した場合、息切れとして認めることがある。心機能に関係なく起こるとされ、必要に応じて利尿薬を使用する。

 

・横隔神経麻痺

右側が最も多く、右上肺静脈隔離中や上大静脈隔離中に発生しやすい。バルーンアブレーション後によく起こるとされ息切れの原因となる。通常再神経支配により6-12ヶ月で改善するが、麻痺が残存することもある。

 

・脳梗塞

シースやカテーテルおよび焼灼巣に生じた血栓、あるいは手技中に混入した空気が原因となる。術後1ヶ月以降も心房細動再燃による全身塞栓症を起こす可能性がある

※引用文献

・2017 HRS/EHRA/ECAS/APHRS/SOLAECE expert consensus statement on catheter and surgical ablation of atrial fibrillation

・基礎から分かる!カテーテルアブレーション

・これから始めるカテーテルアブレーション

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