​第40回医療情報学会連合大会(JCMI2020) 報告記 その2

薬剤部門と最新の医療情報活用法とは?

 近年、情報処理・通信技術の発達により、5GやIoT、ビッグデータ、AI、ブロックチェーンなどの様々な情報活用技術が急速に進歩しつつある。その発展は薬剤部門にも及び、これまではなかった色々な技術が開発され、全国に普及しつつある。今回、2020年11月に浜松にて開催された第40回医療情報学連合大会で発表されていた内容に基づき、薬剤部門と医療情報に関する最新の知識を提供する。

薬剤師・医療情報技師(HIT-Pharmacist)と薬剤師・医療情報技師会について

 医療情報技師の資格を取得した薬剤師は薬剤師・医療情報技師(HIT-Pharmacist)と呼ばれ、薬剤師・医療情報技師会が設立されている。薬剤師・医療情報技師会には2020年現在221名が在籍しており、78%が男性、年齢中央値41歳、88.7%が病院勤務である。HIT-Pharmacistは、薬剤部門と医療情報システムの発展に多大に寄与しており、その活動内容やトピックを紹介する。

―薬剤部門システムについて

 

 薬剤師・医療情報技師会の谷口氏らは、薬剤師・医療情報技師会の会員69名に対して医療機関の薬剤部門の実情を把握するためアンケート調査を実施した。自動錠剤分包機は全体の94.2%、アンプルピッカーは病院全体の55.6%で導入されており、特に500床以上の大規模病院で90.5%と導入率が高かった。バーコードを用いて薬剤管理を行うGS1 DataBarの利用率は注射ピッキングチェックシステム、錠剤ピッキングチェックシステムで高く、それぞれ95.0%、84.2%であった。自動錠剤分包機でのGS1 DataBarの利用率は2016年の調査と比較して上昇していた。GS1DataBarの情報を有効利用することで医療の質が改善する可能性がある。各医療機関において様々な工夫がなされていることがわかったが、まだ質の部分では改善の余地があると考えられる。

 

―薬剤処方について

 

 JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院の大庭氏らは、HIT-Pharmacist、かつ病院情報システム(HIS)が導入されている61名を対象とし薬剤処方に関するアンケート調査を実施した。院外処方箋に処方内容に関する情報をQRコード等の電子的情報として印字あるいは提供している施設は、2016年では10.3%、今回は32.8%と上昇していた。アンケート結果からは「処方日数制限」、「処方医師制限」といったチェック機能は実装率が高く、臨床上重要であることが示唆された。処方箋の内服薬の記載について1回量と回答した施設は2.8%、1回量と1日量の併記と回答した施設は12.9%であった。HIT-Pharmacistが在籍する施設の方が併記しているとの回答が多く、HIT-Pharmacistの存在により1回量、1日量と1回量の併記が積極的に行われている可能性が示唆された。情報システムが発展すれば、電子的なお薬手帳交付が実現する可能性があり、今後の進歩が期待される。

―調剤時の医薬品バーコード照合、バーコード特性について

 調剤時の医薬品の取り違えは、時として患者に重大な転帰をもたらす。人による対策には限界があり、客観的方策が求められている。GS1 DataBarのバーコードが存在している場合には、調剤過誤防止に役立つが、読み込み可能なGS1 DataBarのバーコードの記載がない場合は、取り違えリスクが生じる。

 JA北海道厚生連帯広厚生病院の佐藤氏らは、バーコードについての調査を実施した。帯人厚生病院では、読み取り可能なバーコードがない場合、ダミー用のバーコードを用いて認証を行っている。処方量別のダミー率(GS1コードが読み取り不能)は、処方量が10錠以下である場合、処方量の減少に伴い増加した。1錠で処方された場合には、7割以上においてダミーコードによる認証が行われていた。調剤時に医薬品バーコードを利用している施設の割合はまだ低く、多くの施設では未だ目視確認で鑑査している。目視の場合には、1錠に1つ等の1シートに多数のバーコードを表示させることはデザインの多様性を減少させ、取り違えリスクの増加につながるとの意見もあった。しかしながら、名称類似や外観類似にともなう医薬品取り違えが解消されていない課題であり、バーコードにより客観的に照合することは今後ますます重要と考えられる。バーコード認証施設と目視鑑査施設が混在する過渡期においては、1錠に1つまでではなくとも、1シートに複数のGS1 DataBarを表示することが望まれる。また、ピロー包装にGS1 DataBarが表示されていないために、ダミーコードが用いられたケースも複数確認された。ピロー包装に対するバーコードの表示についても今後の課題として挙げられる。

薬剤情報の連携と今後

―薬剤師による医療情報の活用術

 

 質の高い医療を実現するには、ICT(Information and Communication Technology)を基盤とした医療情報の整備が必要である。ひたちなか総合病院の関氏らは、医療情報の活用のため2014年9月にひたちなか健康ITネットワークを構築し、患者同意の基に処方、注射処方(抗がん剤プロトコールを含む)、検査データ等を地域で参照できる仕組みを導入している。活用の一例として、ネットワークに参加していれば腎排泄の薬剤を薬局が調剤する際にひたちなか健康ITネットワークから患者の腎機能を確認することができる。

2014年11月には、ネットワーク基盤を有効利用する目的で院外処方における薬物治療管理プロトコール(PBPM: Protocol Based Pharmaceutical Management)の運用を地域薬剤師会と開始し、形式的な問い合わせ(一包化、錠形変更、規格変更、残薬調整希望など)を簡素化した。社会問題となっているポリファーマシーに関連する問題点の1つであるアドヒアランス不良患者の残薬に対して、ひたちなか総合病院が主体となった「残薬解消PBPM」の導入をおこなっている。

これは、薬局が医師の処方した処方箋及び患者の残薬を確認の上、処方日数を変更し、医療機関に事後報告するものである。その結果、2年間で約10,500剤(薬価換算で2,600万円)の残薬が解消されているとされる。残薬解消PBPMの手法は、患者の安全面だけでなく、経済面でも大きなインパクトを与えた。

 また、2015年に「ICT等を使用した看護職員等の動態把握ツールを用いた安全性等に係る医療技術評価事業」の中で、名札型赤外線センサー技術を用いて、病棟薬剤師や看護師の動線を把握し、電子カルテアクセスログとの時間軸での突合モデルを報告した。これにより病棟薬剤師と看護師を含めた多職種コミュニケーションの見える化が加速し、今後のさらなる情報の活用が期待される。

―薬剤情報連携の将来

 

 薬剤関連においてもロボット化の流れは進展し、注射薬の自動ピッキング機器をはじめ散薬を自動で計量し分包する機器、水薬を自動で分注し計量する機器、抗がん剤などの注射薬を自動で開封・計量・混合を行う機器など様々な機器が開発されている。保健医療福祉情報システム工業会の木村氏らは、抗癌剤のロボット調製などの自動化は、本来薬剤部門が果たすべき役割である調剤作業のより一層の安全化・効率化の両方に大きく寄与するものの、自動化にあたり、普段行なっている行為が法律のもとでどう解釈され、機械で置き替え可能なのはどういった行為であるのか、十分に検討し、理解しておく必要がある。特に抗がん剤の自動調合時の責任問題・安全性については多くの医療関係者が学会会場で活発な議論を行っていた。

 その他、今後医薬品においてもドローンを活用した配送などが実施される可能性もあるとされる。情報システムから得られたデータをより有効に活用するため、また現在の資源をより効率的に利用するため、AI等の情報処理技術の活用も進んでいる。薬剤関連においても、医薬品の開発だけでなく、流通の効率化や薬品の安全性の向上などにこれら技術が利用されると考えられる。

―総評

 

 今回の学会では、薬剤部門についての最新の医療情報活用法を学んだ。現在、いくつかの病院で導入されている薬局情報共有システムが全国的に普及すれば、アレルギーや腎機能、飲み合わせなどを薬局が迅速に把握でき、安全・効率化の面で大きな進歩となるだろう。そして、普及していない電子処方箋、電子お薬手帳も改善の余地があり、将来的な普及が望まれる。情報活用技術を活用していく上で、切っても切れない関係にあるのが、個人情報の管理である。学会でも話題となっていたが、一つ間違えれば悪用されかねない技術であり、法の整備やセキュリティ対策が必要だろう。

 どんなにIT技術が進歩したとしても、人間でなければできない薬剤師の業務があり、今後も薬剤師がなくなることはない。学会内でも薬剤師は医師とともにロボットに奪われにくい職業であると述べられていた。抗がん剤のダブルチェックや対面指導などはその良い例である。今後は、AI・ロボットに任せられる仕事は任せ、薬剤師の業務量を削減し、薬剤師にしかできない仕事を積極的に行っていくことでさらに医療業界は発展していくと思われる。

文責:西村 哲朗